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和歌山地方裁判所田辺支部 昭和34年(ワ)5号 判決

原告 嶋中悦子

被告 晒義広

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告法定代理人は「被告は原告に対し、金一、二一二、一〇一円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日より完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、つぎのとおり述べた。

一、原告は生後二ケ月を経過した頃、顔面左頬部に赤あざの様なものが認められたので、昭和二七年一二月一三日、和歌山県田辺市湊所在の社会保険紀南綜合病院(以下単に紀南病院という)を訪れ、皮膚科医長であつた被告の診察を受けたところ、右患部にラヂウム放射線を照射すればよいとのことであつたので、被告の意見に従い治療を受けることとした。

二、治療は一回約三〇分、直径約一三ミリ、厚さ約三ミリの円板を患部に当て、ばん創膏で※の形に留めてラヂウム放射線を、昭和二七年一二月一三日より昭和二八年一〇月まで照射した(その回数等別表のとおり)。

三、右初診の当日、ラヂウム放射線をかけたところ、薄赤色の血管は四方に拡張伸延するのを認めたので被告に告げたところ、その後被告は伸延する血管へ、追跡的にラヂウム放射線を照射することを続行した。

ところがラヂウム放射線の治療方法が悪いために排列不正の褐色色素の焼痕の班点(大きさ約30×45ミリ)を生ぜしめるに至つた。

四、治療の経過について更に述べると次のとおりである。

(イ)  一ケ月後、皮膚がはげ始め、薄色の色素の沈着が生じた。

(ロ)  二ケ月後、依然皮膚がはげ続け、色素の沈着が拡張して濃くなつた。

(ハ)  三ケ月後、依然皮膚がはげ続け、色素の沈着が更に拡張して濃くなつた。

(ニ)  四ケ月後、皮膚のはげ続けがひどくなり、色素の沈着による排列不正の褐色の色素が明瞭度を加え、大きさ約四ミリ四方の凹部ができたので、これ以上治療を続行させるのに忍びず、原告法定代理人において治療を中止せしめた。

しかして、その後も前記の障害は消失せず、身体の成長とともに、その面積も拡張して来たのである。

五、ところで、前記のような障害が発生したのは被告の重大な過失に基づくものといわなければならない。即ち右の治療にあたつては、放射線より治療に有効なアルフアー線以外に強いガンマー線等のX線が飛び出すのであるから、これに対する十分な注意を払い、適切な防護の措置を講じ、適度な期間に亘つて使用しなければならないのにかかわらず、被告はラヂウム放射線の性能、効力、反応、副作用等に対する認識及び経験の不足からX線、強いガンマー線等に対する処置、方法、適切な使用期間等適切な防護措置を講ぜず、漫然放射線による治療を続行し、その結果、皮膚の細胞に変質を来したのに一向に気付かず、何等の留意、適切な処置を講ずることなく、更にラヂウム放射線による誤つた治療を続行した重大な過失により、遂に原告に対し、その顔面左頬に前記の如き障害を与えたものに外ならないのである。

六、しかして、被告の右不法行為による原告の損害額は左のとおりである。

(1)  既に支払つた治療費、及び通院旅費合計金五、四一五円

(イ)  昭和二七年一二月一三日(初診日)における診療費金一〇〇円、治療費金一一五円及び治療費一回金一一五円の割合による一六回分合計金一、八四〇円総計金二、〇五五円

(ロ)  付添人二名の原告住所たる西牟婁郡すさみ町大字周参見の自宅より紀南病院までの通院一人一日分の往復旅費金一四〇円につき一六日分合計金二、二四〇円(一人分)と八日分合計金一、一二〇円(一人分)二人分総計金三、三六〇円

(2)  原告の障害の治療費等として将来必要な金額一八八、五五〇円

(イ)  原告の右住所より東京医科大学病院への旅費往復金二、三〇〇円(片道金一、一五〇円)、同大学病院での入院費金一六、六五〇円、治療費金五万円、看護婦への支払額その他金三万円、入院による収入減少額金九千円、栄養費金一万円以上総計金一一七、九五〇円

(ロ)  付添人一人分の右住所より同大学病院までの往復旅費金二、三〇〇円、滞在費金四万五千円合計金四七、三〇〇円

(ハ)  付添人一人分の同往復旅費金二、三〇〇円及び滞在費金二万一千円合計金二三、三〇〇円

なお、治療のため東京医科大学病院を選定したのは、原告法定代理人の二男宏仁(当時五才)が、昭和二七年一〇月九日、紀南病院周参見分院においてヱフエドリン注射禍等により死亡したため、恐怖心を抱いており、同大学病院が最も信頼でき治療に適切であると認められるからである。

(3)  将来得べかりし利益の喪失額金五〇九、〇六八円

(イ)  現在我が国で採用されている身体障害等級表の中損害賠償としての意味をもち、かつ、最低の基準といわれる労働基準法所定の身体障害等級表(同法施行規則別表第二一)が本件障害による損害額を算定するのに最も適切であるので、これに則つて算定すべきである。

(ロ)  ところで、原告の顔面に残つている醜状痕はいかなる治療を加えても消滅しない永久障害で、かつその大きさは鶏卵大以上であるから、右等級表の第七級第九号「女子の外ぼうに著しい醜状を残すもの」に該当することは明らかである。

労働基準法については、一生の労働能力を平均千日と定め、その蒙つた労働能力の喪失分の割合に応じて障害補償を行う定めとなつているところ、右第七級障害は五六〇日分と定められているから、その想定労働能力喪失率は560/1000=56%である。即ち原告はその能力の57%を減じたものとされるのである。この係数をPとすればP=56/100

(ハ)  つぎに、原告の余命年数は、その被害当時満二ケ月であつたから、第九回生命表により六四、五四年と計算される。この期間中原告の苦しみが続くのである。この余命年数をYとする。Y=64,54

(ニ)  本件被害当時、原告の一家は原告を含めて七人家族であつた。原告は当時生後二ケ月の乳児で当然無職であつたが、右平均余命年数の期間中は一人の人間として、生きる権利を有し、かつ、同期間中の生活費は自らの労働によつて得るべき義務を有するものと考えられる。もち論、人生の前後における幼老の不働期間はあるが、これは成年期の労働が、当然自己自身の生活費を上廻ることにより、補われると考えてよい。

このような前提に立ち、原告の生活費について考えるに、原告は嶋中家七人世帯の構成員であるが、厚生省指定統計第五六号世帯人員別標準生計費表(昭和三〇年度東京都)によれば、七人世帯の生活費の合計額は金三五、九九〇円である。これに和歌山県の物価指数九六、五パーセントを乗じて修正すると、右生活費は金三四、七三〇円三五銭となる。従つて一人平均の生活費は金四、九六一円四七銭となる。これをSとすればS=4,961円47銭

(ホ)  よつて以上の各結果に基づき、原告の損害額(×)をホフマン式計算法により算出すれば、

x=S×P×12×Y/1+rY(r= 0.05……法定利率)

x=4,961.47×56/100×12×64.54/1+0.05×64.54 = 2,151,832.65/4.227 = 509,068

即ち金五〇九、〇六八円が原告の得べかりし利益の喪失額である。

(4)  原告の慰謝料は右同額の金五〇九、〇六八円を相当とする。

七、よつて、被告は原告に対し、その不法行為によつて生ぜしめた損害額合計金一、二一二、一〇一円を支払うべき義務があるから、原告は右金額及びこれに対する本訴状送達の日の翌日より完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴請求に及ぶ、と述べ、被告の抗弁に対し、

原告が本件第四回口頭弁論期日において被告主張の如き自認をなしたことは認めるが、これは真実に反し、かつ錯誤に基づくから本件第一九回口頭弁論期日において右自白はこれを撤回する。原告が被告の過失による損害を知つたのは真実は昭和三一年四月頃であるから、本件起訴当時(昭和三四年一月二八日)は未だ時効は完成していない。それ故、被告主張の時効の抗弁はその理由がない、と述べた。

被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、

一、請求原因一、の事実は認める。但し、初診当時原告の顔面左頬部に小児手掌大の巨大な海綿状血管腫を認め、表面全般に膨隆し、凹凸著しく真紅色を呈し、深さ約一センチ強であつて稀にみる血管腫であつた。

二、同二、三の各事実は否認する。昭和二七、八年当時の紀南病院のラヂウムの力は一時間五ミリキユリーであり、容器の大きさは十円硬貨よりやゝ小さく、治療の実施にあたり一ミリのすず板を使用し、ベーター線の防護をしつつアルフアー線のみを作用させ、原告の病源は小児掌大のものであつたから、一度に全面に照射することができないので、一回約十分病源の三分の一に当る部分に当て、かくて順次三分の一づつ照射することにより全部にゆきわたるような方法により、かつ、昭和二七年一二月に四回、昭和二八年一月に三回、同年二月に一回、同年三月、四月に各三回、同年五月に一回、同年六月は〇回、同年七月、八月に各一回、同年九月、一〇月に各二回に亘つて放射線を照射し海綿状血管腫を治療したものである。

三、同四、の事実は不知。

四、同五、の事実は否認する。被告は前記の方法、回数により最善の努力を尽して治療したもので、その治療については何等の過失もない。

五、同六、の各事実は不知。

六、同七、の主張は争うと述べ、仮定抗弁として、

本件治療は昭和二七年一二月一三日に始まり昭和二八年一〇月に終つている。

しかして、原告は本件第四回口頭弁論期日(昭和三四年七月七日午後一時)において昭和二八年四月頃和歌山医科大学附属病院で診察を受けた際原告主張の如き被告の過失による損害の発生を知つた旨述べている。果してしからば、おそくとも昭和三一年四月の経過をもつて原告の損害賠償請求権は時効によつて消滅したものといわなければならないから、本件第七回口頭弁論期日(昭和三六年二月六日午後一時)において民法七二四条の消滅時効を援用する、しかるときは、原告の本訴請求はその理由がないことに帰する、と述べ、原告の自白の撤回につき異議を申し述べた。

証拠〈省略〉

理由

請求原因一、の事実は当事者間に争いがない。

しかして、成立に争いのない甲第一、二号証、乙第一、二号証、証人嶋中弘明の証言、被告本人尋問の結果、鑑定人立花和典の鑑定の結果(鑑定書と供述)に弁論の全趣旨を綜合すれば、原告は昭和二十七年一二月一三日より昭和二八年一〇月二四日までの間、紀南病院において被告の指示により患部たる顔面左頬部の海綿状血管腫にラヂウム放射線による治療を受けたのであるが、その結果として、血管腫自体はほゞその治癒をみるに至つたが、別に同部の皮膚がはげ続け、表皮が茶褐色に変色し、更に凹部ができたが、これは淡褐色の色素沈着を主とし淡白色の色素の脱失を一部に混ずる色素異常及び皮膚萎縮によるものであつて、昭和三七、八年当時における右障害の範囲は略々鶏卵大(長径五、二センチ、短径三センチ)であり、凹部は皿状と線状のものがあり、一見かなり醜い様相を呈していることが認められ、右認定に反する証拠はない。

原告は右の如き障害の発生はラヂウム放射線の過度の照射によるもので、これは被告の医師としての業務上の過失に基づく旨主張するので、更にこの点について判断することとする。

成立に争いのない甲第五号証の一ないし八、乙第一ないし三号証、第五号証、証人嶋中弘明の証言と被告本人尋問の結果(各一部)を綜合すれば、原告に対するラヂウム放射線による治療の方法はラヂウムの容器は大体一〇〇円硬貨大のもので、その外側にすず板(たばこの包装に使用されている銀紙よりもやゝ厚みのあるもの)を取り付け、右容器の中にラヂウムを入れ、一回に患部の三分の一づつにこれをあてゝ照射し、順次全部にゆき亘るように施行し、照射時間は一回約一〇分、ラヂウムの力は一時間五ミリキユリーであつて、右の方法による治療の回数及び期間は昭和二七年一二月一三日、同月一六日、同月二三日、同月二七日、昭和二八年一月一〇日、同月一三日、同月二〇日、同年二月一二日、同年三月一七日、同月二四日、同月三一日、同年四月七日、同月一四日、同月二七日、同年五月二二日、同年七月三一日、同年八月一〇日、同年九月五日、同月一九日、同年一〇月三日、同月二四日各一回合計二一回であつたこと、血管腫は同年三月頃には次第に拡大の徴候を示し、同年七月三一日に至つても患部の周りの発赤が猶著しかつたことが認められ、右認定に反する証人嶋中弘明の証言と被告本人尋問の結果の各一部は前記各証拠と対比すればにわかに措信し難いし、また弁論の全趣旨によつて成立の真正を認める甲第三号証には原告が紀南病院において、昭和二七年一二月より昭和二八年一〇月まで合計二四回に亘りラヂウム貼布治療を受けた旨の記載があるけれども、乙第一、二、五号証と被告本人尋問の結果の一部とに対比すれば右記載は必ずしもその全部についてはたやすく信用できないし、また証人佐藤政一の証言により成立の真正を認める甲第六号証によれば原告に対するラヂウム放射線による治療は一時間五〇ミリグラムのラヂウムによつて施行された旨の証明部分があるが、これは訴外佐藤政一が一時間五〇ミリグラムまでと記載すべきをラヂウムに対する無知から誤つて右の如く記載したものであることは乙第三号証と右証人の証言に徴して認めることができるから、右証明部分もまた、真実に合するものとは言い難く、他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。

ところで、鑑定人立花和典の鑑定の結果(鑑定書と供述)によれば、右治療方法によつてラヂウム放射線の照射を行うときはラヂウムより放射されるアルフアー線の全部及びベーター線の一部が容器及び使用濾過板たるすゞ板によつて吸収されるが、ガンマー線は殆んど吸収されず、結局ベーター線とガンマー線とが照射され、本件の障害はこれによつて生ぜしめられたことが推認でき、また、海綿状血管腫の治療にあたつては他の治療方法と同等に右の如きラヂウム放射線の照射によることも有効適切な方法であるとして前記治療期間当時の医学上是認されていたものであるが、その場合右の方法によることは患部及びその周囲の皮膚に対し、前記エネルギーによる障害の発生を招来する危険性のあることも当時の医家の常識であつたことが認められる。それ故ラヂウム放射線照射の施行に当る医師としては放射線照射量及び放射線に対する患者の感受性等を常に細心の注意をもつて観察し、斑痕として残るような皮膚障害を来さないように、即ち放射線の皮膚に対する影響の有無が完全に現れるまで皮膚の状態を仔細に観察し、その結果をまつて更に放射線による治療を続行すべく、当該治療にあたり、皮膚障害の発生を免れ得ないとすれば患者に右事情を説明してその承諾を得、当時の医学上の立場から、最少限度に被害を喰い止めるが如き方法によつて治療を施行し、それでもなおかつ皮膚障害を最低限度に止めることが困難で永久的な醜状痕を残すことが予想されるような場合は放射線による治療方法を中止し、他の治療方法によるべきか否かを十分に検討して適切な処置を講ずべき治療上の注意義務があるものといわなければならない。殊に患部が最も人目につき易い顔面であつて、しかも患者が幼少な女子である場合(幼時の小さな皮膚障害でも成長と共に漸次拡大することにも留意しなくてはなるまい)はそうでない場合に比して右の業務上の注意義務は更に過重されるものというべきである(もつとも、放射線による障害の発生が医学上やむを得ないものであり、かつ、別途それに対する有効適切な治療方法が存在するとするならば、直ちに右障害の発生を目して医師の治療上の過失に基づくものということにはできないけれども、本件治療当時も、またその後においても右障害に対する適切有効な治療方法の存していないことは右鑑定の結果によつて認められるところである)。

以上の如き観点に立つて本件を観察すると、証人嶋中弘明の証言と被告本人尋問の結果(一部)、右鑑定の結果(鑑定書と供述)によれば被告は右の如き点を十分に考慮することなく、海綿状血管腫のラヂウム放射線による治療は必然色素沈着、色素脱失、皮膚萎縮等の皮膚障害を伴うもので、右障害の発生は治療上やむを得ないとの考えの下に血管腫の治療のみに意を向け、漫然ラヂウム放射線による前記の如き治療を長期間に亘り続行したため、血管腫は殆んど治癒したもののいわゆる焼き過ぎとなり前記の如き形状の大なる醜状痕を残胎せしめるに至つたものであることが認められ、右認定に反する被告本人尋問の結果の一部はにわかに信用できず、他に右認定を左右すべき適切な証拠はない。

たゞ、たとえ右の如き障害が発生した場合でもその障害と初診時における海綿状血管腫を治療せずに放置した場合の状態とを美容的に比較観察し、障害の方が美容的にはよりよいとするならば、治療はその限度で効果をあげたものと言いうるから、右障害の発生をもつて直ちに医師の過失を問うことはできないとする見解もあり得るかも知れないが、右の見解には直ちに賛成できないのみならず、本件においてはそのような比較をなしうべき適切な資料も存しない。

以上の次第で、本件障害は被告の過つた治療方法に基づくラヂウム放射線の過度の照射によつて生じたものと認めざるを得ないのである。

よつて、被告の不法行為によつて生じた損害額について判断することとなるが、かりに原告主張の損害額の全部又は一部が認定されたとしても当裁判所は被告の消滅時効に関する仮定抗弁を理由ありと認めるので、損害額についての判断を省略し、すすんで右抗弁についての判断を示すこととする。

原告法定代理人が本件第四回口頭弁論期日(昭和三四年七月七日午後一時)において原告は被告の治療上の過失による損害の発生を昭和二八年四月頃和歌山医科大学付属病院で診察を受けた時に始めて知つた旨の陳述をなし、被告訴訟代理人が本件第七回口頭弁論期日(昭和三六年二月六日午後一時)において右の陳述を援用し、昭和二八年四月よりおそくとも三年を経過した昭和三一年四月の終了とともに原告の損害賠償請求権は時効消滅した旨抗弁するに及び、原告は右陳述は真実に反し、かつ錯誤に基づくとしてその後本訴において右陳述を撤回し、被告においてこれに異議の申立をなしたことは本件記録上明らかである。

よつて考究するに、原告の右陳述が真実に反し、かつ錯誤に基づくとの主張については、証人嶋中弘明の証言はその前後を通じてみると甚だあいまいで、かつ矛盾しており、これをもつてしては到底右主張を肯認することはできず、その他本件に顕れた各証拠によつてもこれを認めることはできないから、他にこれを認め得る有力な証拠のない限り原告の右撤回はこれを許すわけにはいかないのである。

そうすると、昭和二八年四月より三年を経過した昭和三一年四月の終了即ち同年四月三〇日の経過をもつて原告の損害賠償請求権は時効によつて消滅したものといわなければならない。

よつて、原告の本訴請求は失当として棄却を免れず、民訴八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 太田昭雄)

別表〈省略〉

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